星とピエロ
飴屋夜春の独白日記  copyright(C)yoharu ameya
トライアングル
20080905223410

壮大なオーケストラが
少なくとも己の心には
聴こえてくるのだ ジャジャジャジャーン
ではなくて正三角形のチャッチャッチャ

沈丁花の香り 櫻の蕾
綱渡りのカラス 粉々のグラス

少なくとも己の心には
映っているのだ 遠ざかるな

子猫の足跡 蔦の葉が揺れて
花粉舞い降る 雪知らず

トライアングルでもなかった
ぬるい風を切り刻む足音のリズム

か細い協奏曲のように




080316 飴屋夜春
友達と呼べるのは

『いちばんすきな人とは一緒になれない』

よく聞く言葉だけど時折そう思う

『結婚していてもすきな人はいる』

よく聞く言葉だけど時折そう思う


***

過去に、
ふたりにしか分からない事故が起こった。




ふたりは互いを想い合っていた。
それをふたりは知らなかった。
そしてふたりはタイミングを間違えた。

彼は、一生の借りを彼女につくった。
彼女が気にしなくても、彼自身は悔やんだ。

日月が経ち、
互いは何事もなかったかのように、
顔を合わせ、酒を酌み交わす。

「借り」は黙殺されたまま、関係は続く。

友情とも愛情とも似ているようで違う、
でも暖かな温度で関係は続く。

彼は彼女に淡い恋情を抱いたままだ。

彼は彼のやり方で、彼女を愛す。
気付かれないような素振りで。

彼女はうすらと気付いても、
気のせいだとすぐに湯気を追い払う。

微妙な空気を思い出さないために。

「友達」という言葉を堂々と使えるのは、
大人の特権であるかもしれない。


080904

無題

同じ事実と対面して
幸か不幸か感じるのは
己自身だ

同じ景色と対面して
幸か不幸か感じるのは
己自身だ

不幸ぶって閉じこもるのは休んで
目の前にあるものをまっ白な心で

見て感じるんだ

不幸という檻を作ったのは
環境でも他人の所為でもない

壊して、掴まえろ


080901 飴屋夜春

無題

止まらない涙が頬を伝って
10本の指で顔を覆って
目蓋が重い

喉元を締め付けるのは何者
自分それとも他に何がある
喉元を締め付けるのは何者

目の前で親子連れが歩いてる
手を繋いで歩いてる
子供が笑ってる

普通の幸せが目の前で



幸せになりたいなんて
自分勝手に願ったって
何も努力してないのに

でもなんでこんなに遠い

止まらない涙が地面を濡らして
10本の指は役目を失って
身体は地に崩れ落ちて
目蓋は開かなくなって

なんでこんなに遠い

なんでそんなに遠い

喉元を締め付けたまま
身体は震え涙は凍る



080901 飴屋夜春


彼女のビート

目の前で口がぱくぱくしている彼女
不協和音は一定のリズムで進む

『あなたが心配なのよ』

彼女はいつ息を吸っているのだろう
不協和音は途切れずに進む

斜め前、窓の外は晴れやかで
私は生暖かい風を飲み込んだ

彼女のビートを不思議に思う

目の前で口がぱくぱくしている彼女
私を心配し、諭してくれている彼女

『あなたに私の何が解るの』

わざと私は禁句を紐解いてみる
後味の悪さと恥ずかしさが襲う

やっと訪れた沈黙の重み

彼女は私を心配しているのではない
喋り吐き倒す事で自らを肯定し
私を使って無意識に安心を求めている

彼女にはプライドがあるから
弱点を見透かされてたまるものかと
チラつく闇を切り捨てるように言葉を吐く

『とてもさみしいね』

私のビートはおそろしく遅い
私にはプライドが無いのかもしれない
自己満足だけでぬくぬく丸まっている猫

『さみしくないわよ』

彼女は落ち着きがなくそわそわしている

男の子から人望がすごくあって
いつも手帳を真っ黒に埋めて
ひとりでトイレに行けなくて
クラスの人気者で

彼女のほんとうは掻き消されていた
不安や痛みをどこにしまっているの

彼女と私がこころを通わすには
まだまだ時間を必要とするだろう

私が彼女を知るには
まだまだ自分は子供すぎるのだろう

顔を戻したら、彼女は、泣いていた



飴屋夜春 080807